輪橋山徒然話 2024/1/11 「舟唄」
◆「舟唄」は阿久悠さんの作詞だ。
お酒はぬるめの燗がいい
肴はあぶったイカでいい
◆「これはね、『舟唄』という映画なんです」と主演の高倉健さんが八代亜紀さんいったそうだ。うれしかったと八代さん。
◆この映画とは「駅STATION」。舞台は北海道。脚本はかの倉本聰さんだ。
◆三人の女性が登場する。「直子」(いしだあゆみさん)、「すず子」(烏丸せつこさん)そして「桐子」(倍償智恵子さん)だ。映画の構成は健さんを真ん中にしたオムニバスだ。三人が三人とも「せつない」人生を歩んでいる。もちろん、英次役の健さんもそうだ。
◆この大河のような作品の挿入歌が舟唄だ。英次と桐子との出逢い、大晦日英次と二人がカウンターで紅白を見る場面(大トリの八代亜紀さん)、そして最後の別れ、英次に背を向け素っ気ない態度で「舟唄」に聞く桐子。いっぱいの涙。合計3度の「舟唄」が流れる。
◆この演歌の女王が逝った。夜の新宿の「なみだ恋」も、「雨雨、降れ降れ」の「雨の慕情」もいいが、私はやはり「舟唄」だ。「桐子」と「英次」の舟唄がいい。
◆さて、この「舟唄」がヒットした昭和54年には携帯音楽プレーヤー「ウォークマン」が発売された。私は「ウォークマン」には手が届かず、真紅のaiwaのそれを買った。今から思えば、これを境に、音楽は家族みんなで聴くものではなく、一人で聴くものへと変わっていく。
◆そのころの若者が夢中になった携帯プレーヤーでの音楽鑑賞を、阿久悠さんは「点滴」のようだと評したそうだ。今やその点滴のコードも無い。その代わり、外界と遮断するような白い耳栓をした大衆がいる。さて、阿久悠さんはこれをなんと呼ぶのだろう。
◆「女は無口な人がいい」の「女は」で止めて、みんなにマイクを向け「無口の方がいい」と歌うのがオハコの先生も、「しみじみ」を「しみずみ」と少し訛るあの先輩も…。忘年会も新年会も様変わりしたと聞いた。スナックには人はまだ戻ってこないとも…。
◆さて、家族団欒も変わった。正月、親戚が集まっても誰かが必ずスマホを開いている。それが悪いともはや誰も言わない。
灯はぼんやり 点りゃいい
しみじみ飲めば しみじみと
思い出だけが 行き過ぎる
涙がぽろりと こぼれたら
歌い出すのさ 舟唄を
◆人生を象徴する舟唄は、時代をも象徴する。
演歌の女王が逝った。
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