ピカソの魅力は際立たせたい個性のために、必要でないものを削り落としていく「引き算の美学」だ。

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「引き算の美学。これが ピカソだ」

◆加える芸術と引く芸術、足し算の美学と引き算の美学という両方の言葉がある。

◆たとえば、洋食は「足し算」にある。基本の具材にスパイスやワイン、ハーブなど、味と香りをどんどん「足し」 重ねることで、より複雑で奥深い味わいを引き出していく。それに対して和食は「引き算」にある。余計なものを「引く」ことで本質を引き立たせようとする。

◆絵画でも同じことが言えそうだ。油絵はどんどん色を重ねていく。それに対して水墨画は淡白であり、あえて余白をつまり、味わう。

◆さて、本日の3枚の絵。作者はパブロ・ピカソ。1881年にスペインで生まれ、1973年に亡くなった20世紀を代表する画家だ。彼はキュビスムの創始者の一人として知られている。生涯に渡り、その革新的な形式と深い感情的な表現で美術界をリードした。

◆本日の写真の作品はリトグラフという版画なのだが、出来上がった版を時間ごとに並べていくと画家の最初のイメージがどのように変化して、どのような最終的な作品になったがわかる。なにしろ一本の線画になるのだ。まさに引き算の美。不必要なものをこれでもかと削っている。その過程の変化が驚くほど劇的なのだ。

◆くわしく見てみよう。

◆はじめは、ピカソの写実的に描いた牡牛からスタートする。その次は、右上のメタリックな牛、これは最もピカソらしいキュビスムを感じさせるような版画だ。非常に機械的で立体的な牡牛だ。さらに、試行錯誤を繰り返すこと9回。どんどん線が消されていく。最終的には右下の線描きの牡牛が生まれるのだ。

◆この時の作業は、際立たせたい個性のために、必要でないものを削り落としていく。そのために無駄なところはどこなのかを見抜いていく。そして、より少ない表現に徹する。完成された作品は「美」そのものということになる。

◆お釈迦さまの「知足」の教えにも似ている。すでに足りていることを知る「少欲」。これは引き算の美学そのものだ。反対に、常に「もっともっと」と渇望するのが「多欲」。欲によって手に入れたもので心は満たされない。執着は心の安寧を妨げるという教えだ。

◆「引き算の美」とは、余計な要素を削ぎ落とし、作品の本質を際立たせる技法だ。このアプローチは、余白という「無」を用いて「有」を強調し、何が本質かを見定める眼を養ってくれる。これがピカソだ。

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