輪橋山徒然話 2023/11/6 「模倣」
◆モーツァルトも シェークスピアも「模倣」の天才だ。
◆ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトは、3歳でピアノ、5歳で作曲を始め、12歳で最初のオペラを作曲したという「神童」だ。
◆このモーツァルトは「模倣」の天才とも呼ばれている。実際、モーツァルトの「レクイエム」は、ミヒャエル・ハイドンの「レクイエム」とよく似ている。
◆モーツァルトの父はハイドンの才能を高く評価し、息子に彼の作品を模範としてよく練習させていた。このことからも、モーツァルトがハイドンを下敷にしたことは事実のようだ。
聴き比べるとモーツァルトの方が劇的でメリハリがある。似ているが、明らかに違う。しかし、ここで大事なことは、ハイドンの「レクイエム」なしにモーツァルトの「レクイエム」はない。先行する作品があり、名曲がこの世に生まれたのである。
◆現在のようにコンピュータで音楽を取り込むことのできる時代ではない当時にあって、よい音楽を取り入れて、より価値のあるものに仕立て、次に繋げていく過程の話なのである。芸術家というよりも職人なのである。
◆それは、大工棟梁が職人を使い、更に洗練された建物を建てるような作業と似ている。現在の「コピペ」とは明らかに違う。
◆かのシェークスピアも同じだ。シェークスピアの全作品のほとんどに「先行作品」が存在するという。「ロミオとジュリエット」は、それが上演される30年ほど前に「ロミオとジュリエットの悲しい物語」(作者 アーサー・ブルック)という物語詩があったことは広く知られている。更に、その前には原型となったイタリア語の詩も存在し、研究者によれば、古代ローマまでその原型を辿ることができるそうだ。
◆シェークスピアによる大胆な仕立て直しを、東北学院大の下館和巳教授は「鉛を金に変える錬金術師であった」と評さしている。同時代には「盗作野郎」と呼ばれていたシェークスピア。彼は、戯曲化するにあたって、先行作品の登場人物の名前さえそのまま使ったそうだ。
◆シェークスピアの「ロミオとジュリエットの」中には、時代を超えた普遍のテーマがある。その普遍性を見抜き、戯曲化した。そこに価値があるのだ。その証拠に現代まで何度もリメイクされている。「ウエストサイド物語」(映画)もそうだ。
◆無からの創造は不可能だ。
◆モーツァルトは、ほんのちょっとした楽想の断片から、素晴らしい旋律をつれたのも、シェークスピアは埋もれている先行作品から、普遍性を見つけ、組み合わせ、戯曲化できたのも豊かな感性と知識があったからだ。それが二人の創造の源泉なのだ。それが二人の業績の基盤となっているのだ。
◆さて、AIの時代である。しかも、世は先行作品で溢れている。どのような感性を育てて新しい価値を生み出していけばよいのだろうか。
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