輪橋山徒然話 2024-8-31 神様がたった一度だけ
「チクショウ。
もう食わねえ、くそばばあ。
おれなんかどうなったっていいんだ。
産んでくれなけりゃよかったんだ。」
母は泣いていましたよ。
よほど悔しかったのか、しばらく口をききませんでした。
◆詩画作家の星野富弘さんだ。
◆詩画とは、四季折々に咲く野の草花のやさしい色合いの絵に詩が添えられている。
驚くことに字も絵も全て口で筆を操り描いている。どの作品もあたたかく、力強く、弱っている心を励ましてくれる。私自身は、教員になりたてころに先輩に頂いたのが出会いだ。星野富弘さんの絵も詩も、右も左もわからない教師なりたての私の手本だった。
◆星野富弘さんは、1970年群馬大学教育学部体育科卒業。
中学校の教諭になるがクラブ活動の指導中頸髄を損傷、手足の自由を失ってしまう。
◆それから、長い闘病生活が始まる。「365人の生き方の教科書」に星野富弘さんはその時のことを書いている。
◆当然、食事は三度三度口に入れてもらっていた。
たまたま、お母さんの手元が震えてスプーンの汁を私の顔にこぼしてしまったとき、口の中のご飯粒を母の顔に向けて吐き出した時の言葉が「チクショウ…」だ。
◆積もり積もっていたイライラが爆発してしまったのだ。
◆星野富弘さんは続ける。
ところが、ハエがうるさく顔の上を飛び回り、いくら顔を振っても離れてはすぐに私の顔にたかる。だまりこくっていた母もたまりかね、私の顔にたかっているハエを叩こうとしたんです。
そして、叩くというより押さえた。-略-
母はどんなに私を憎んでいても、私の顔につきまとうハエを見過すことができなかった。
◆その時に触れた母の手は、ざらついてはいたが柔らかな手、湿った手のぬくもりがあったと星野富弘さんはいう。そして、その手に星野富弘さんは「見返りを求めない母の愛」を感じたという。
「なずな」
神様がたった一度だけ
この腕を動かして下さるとしたら
母の肩をたたかせてもらおう
風に揺れる
ぺんぺん草の実を見ていたら
そんな日が
本当に来るような気がした
◆母は偉大だ。
◆星野富弘さんは令和6年4月28日、呼吸不全のため、みどり市内の病院でお亡くなりになりました。 合掌
富弘美術館 https://www.city.midori.gunma.jp/tomihiro/
HPには星野富弘さんの5分間のパラパラ漫画がある。是非。
致知出版 365人の生き方の教科書4月27日を参考にしました。
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