輪橋山徒然話 2024-8-22. 「鬱」の書き方
◆親戚に「漢字」と「国旗」と「高速道路のインターチェンジ」が大好きな小学生がいました。この子は、小学校に入学する前から漢字ドリルや漢検の本に夢中になっていました。たまに遊びに来ると、魚偏や木偏の漢字を一つずつ書く競争を挑んでくるのです。最初は面白がって付き合っていたものの、だんだん私はその競争を避けるようになりました。なぜなら、当時、現役の教師として、幼稚園児に「漢字」で負けるわけにはいかなかったからです。
◆ある日、その子が「鬱という漢字も書けるよ」と誇らしげに言いました。私は思わず「それならば」と反応しました。
◆幸いにも、私は「鬱」という漢字の覚え方を知っていたからです。それは「リンカーン大統領」というユニークな覚え方でした。ちなみに、この覚え方は共同通信の編集委員、小山鉄郎さんが紹介していたものです。
◆「リンカーン大統領はアメリカンコーヒーを3杯飲む」という覚え方です。「リン」(林)、「カーン」(缶)、大統領「は」(冖)、アメリカン(米)、コ(凵)、ーヒ(ヒ)、ーを3(彡)杯飲む、という具合に漢字のパーツを連想して覚えます。うまい方法だと感心しました。
◆この記事には「鬱」という字の解説もありました。
◆「鬱」は「鬯」、「彡(さん)」、「冖(わかんむり)」、「缶(かん)」、「林」で構成されています。「冖」は容器のふた、「彡」は色や香りが盛んな様子を表す記号です。「缶」は現代では「カン」のことですが、古代では「甕(かめ)」を指していました。「鬱」という字は、甕の酒に香草を加え、ふたをして覆っておくと、やがて強い香りがする酒である「鬱鬯(うっちょう)」ができることを表したものです。
◆悔しいですが、きっとその子は、この時点で私の「リンカーン」よりずっと知的な覚え方をしていたに違いありません。
◆さて、なぜ「甕の酒に香草を加え、ふたをして覆って強い香りがする酒ができる」という意味を持つこの漢字が、現代では多くの人を悩ませる「うつ(鬱)」を表すのでしょうか。
◆私はその答えを探すために「鬱」の訓読みを調べてみました。
鬱ん(さかん)
鬱る(しげる)
鬱ぐ(ふさぐ)
この中で、③の「鬱ぐ(ふさぐ)」が、気分がすぐれず憂鬱な気持ちになることを表しているようです。
◆おそらく「うつ(鬱)」とは、甕の酒に香草の香りが充満するように、心に不安が広がり、やがて心のすべてがその不安に覆われてしまう状態を示しているのでしょう。小さな闇があれよ、あれよと広がっていくのです。心を鬱ぐ(ふさぐ)のです。
◆この「鬱の種」は、生活習慣に現れます。老人鬱は徐々に「着替え」「起床時刻」「就寝時刻」「食事」「風呂」「洗濯」「ゴミ捨て」「歯磨き」「掃除」など怠るようになるそうです。無気力さは、「心のバランス」が崩れている証拠なのです。
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