クラウディアは愛する人と別れても、その人の幸せ、その家族の幸せに、満足と感謝を感じたことだろう思う。

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輪橋山徒然話 「クラウディアの慈愛」 2023/10/5

◆「慈」とは、抜苦(ばっく)の心。苦しんでいる人を見ると、じっとしておれない心。何とか苦しみを抜いてやりたいと思う心だ。

◆「愛」と「慈愛」は次のように区別される。

◆例えば、誰かを「愛」したとする。相手にも「愛」されたいと思う。相手にも自分が思うと同等の「愛」を求めたくなってしまうのだ。相手を独占したくなる。つまり、「お返し」「代償」が欲しくなってしまうのだ。それがないと知った時には、人は裏切られたと思い、苦しみ、そして、相手を憎むことになる。

◆「可愛さ余って憎さ…」だ。「愛」と「苦」は比例するが如くの関係なのだ。つまり「愛」が大きければ大きいほど、苦しみ、憎しみが増してしまう。

◆この「慈愛」を教えてくれる話がある。歴史に翻弄された人組の男女の話だ。

◆男性は、第二次世界大戦後の翌年、ソ連軍にスパイの容疑をかけられて、朝鮮半島からシベリアの収容所に送られた日本人。女性は、ロシア革命の混乱の中で両親を失い一人で生きてきたロシア人の女性。二人は保養所で出会い、ひかれ合う。

◆やがて日本へ帰ることを諦めた男はこの女性と結婚する。二人は、ロシアの村でつつましい暮らしを始める。しかし、二人の暮らしは安穏としたものではなかったようだ。長い間スパイの疑いをかけられたままの夫を女性は守り続ける。

◆そして、二人が暮らし始めて40年が過ぎた頃に、実は男の妻子が、日本で今も男の帰りを待っていることを二人は知るのだ。この女性は「人の悲しみの上に自分だけの幸せを築くことはできない」と男を日本へ返す決心をする。

◆彼女が、相手の痛み、苦しみを自分が本当に受けたように想像して、導き出した答えが「人の悲しみの上に自分だけの幸せを築くことはできない!」だ。夫を日本に返すことだ。これが、慈愛の心だ。さて、愛する人を日本に帰した彼女は「不幸」になったろうか。そんなことはない。きっと、40年間愛した人の幸せ、その家族の幸せに、彼女は満足と感謝、そして幸せを感じたろうと思う。

◆このロシアの慈愛の人の名こそ「クラウディア」なのだ。

◆さて、「クラウディア」で思い浮かんだのは一つだけ。かのサザンの名曲「Oh!クラウディア」だ。この「クラウディアのいのり」との関連は不明であるが、この話が、この曲に更なる奥行きをプラスしている。

参考 クラウディアのいのり  文/村尾 靖子絵/小林 豊  ポプラ社
13歳からの絵本ガイド 西村書店 金原瑞人 ひこ・田中

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