輪橋山徒然話 2025-4-7銀河鉄道999
◆『銀河鉄道999(松本零士)』の「亡霊トンネル」という話の中に、こんな一節がある。
「人によっては自分の立ち去ったあとに『心』を残してゆくことがある。とてもやさしい『心』もあれば、いてもたってもいられなくなるいやな『心』もある。空間には目に見えないそういう『心』が数かぎりなく残っているのだ……」
◆高校生ぐらいだった。
深夜放送のラジオドラマで、初めてこの「999」に出会った。
毎晩イヤフォンから流れてきたのは、どこか寂しげなナレーションと、宇宙の奥へ響く汽笛の音だった。
◆『銀河鉄道999』は、少年・星野鉄郎が永遠の命を求め、機械の体を手に入れるために銀河を旅する物語なのだが、今思えば999が運ぶ本当のメッセージは、「人間とは何か」「命の価値とは何か」といった問いだった。
◆あれから何十年も経った。
今改めて、「亡霊トンネル」のこの一節が、強く胸に響いてくる。
いや、大人になった今だからこそ、じわりと沁みてくるのかもしれない。
◆自分の立ち去ったあとに『心』を残すとは、たとえば、もう二度と会わない誰かに向けた言葉のことだ。それは、言えなかった「ありがとう」や、「ごめんね」、そして「さようなら」。そんな“心の痕跡”を確かに置いてきた気がする。
◆時を越えて誰かの心に残ることもあろう。
それはやさしさにもなれば、棘にもなりうる。共に生きるということだ。
そして、目に見えない「心」が、いつまでも漂っていると思うと、少し背筋が伸びる気がする。
もしそうであるならば、やさしい「心」を、そっと置いていける人でありたい。
それは、丁寧に生きると言うことか…
◆999に夢中だったあの頃の私たちは、十分もう大人になった。
けれど、旅はまだ終わっていないのだ。
人生というレールはつづいていて、私たちは今日も、どこかの駅を通り過ぎている。
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